島国根性

「島人根性」なる一語は著《あき》らかに島嶼と人生の関係を表わすもの
・海中に在りて依るべきを島という。

島嶼と気候〕 島嶼が人生におよぼす特殊の関係の最も根本的の原因は、そが特殊の気候を現出するにあり。地表上に碁布《きふ》散在せる無数の島嶼中には、大陸より遠きものあり、近きものありといえども、均しく海上に孤立し、海水によりて囲繞せらるるがゆえに、気候上よりいえば、海洋の影響がその内部にまでおよび、したがって島嶼は、吾人が日常経験するがごとく、これを大陸における同じ面積の部分に比較すれば、変化多き、しかも極端なる激変なき、すなわち小変多種、寒暑中和の気候を現わすものなるに、一般にその内部の地勢もすこぶる錯雑しおれば、それにともなう生物の種類も、大陸の同面積に比して、はるかに多種複雑なり。 http://members.jcom.home.ne.jp/lonberk/m1-3-1.html

※直訳ではありません。私的な覚え書きです。

○島国が人生にどういう特殊関係をもたらすか、その根本的原因は、気候にある。
○島国とは、大陸の同じ面積部分を比較すると、海に包囲されているがゆえの潮の干満の変化はあるにしても、極端な変化はない。
○気候は、小変多種・寒暑中和を現すし、地勢もまとまりがなく入り混じっているにので、そこに住する生物の種類も多種複雑である。


島嶼の天恵〕 これ実に島嶼の特別なる天恵というべきものにして、島国はすなわちこの天恵に浴して、特殊の発達をなすなり。今その最も著しき特色を数えんか、按《おも》うに島国を形成するにたるほどの世界の大島は、概してその附近の大陸に比すれば、住民の生存に適し、かつその生活に便宜なるがごとし。これまた、吾人の生活に顧み、これを近隣の大陸国民の生活状態に比較するによりて、容易に首肯しうべきところ。けだし気候の和順にして過大ならざる多様の変化は、直接に住民身体の健康に適するのみならず、生物の多様なるは、間接に住民の生活に多くの便まく宜を与え、彼らをしてその生活資料を広く海外に需めざるも、能く安穏に快楽なる生活を遂げしめ、もって特殊の発達を無さしむべければなり。

島嶼(とうしょ)とは大小さまざまな島のこと。
○島国は、大陸と比較すれば特別な天の恵みを浴し、特殊な発達を成すことができる。
○島国は、住む環境に適しており、生活にも便宜である。
○確信をもって推察するに、気候の和順にして差がない多様な変化は健康に適しているのみでなく、生物も多様なだけに利便性に富んでいる。
?※彼らをしてその生活資料を広く海外に需めざるも、能く安穏に快楽なる生活を遂げしめ、もって特殊の発達を無さしむべければなり。



〔島の心情〕 本邦ならびにイギリスの人口の稠密《ちゅうみつ》およびその今日における発達は、この事実によりて説明せらるべきものなり。この事実はまた吾人をして島が住民心情の暢発に適することを推考せしむ。これ前陳の事実とともに、吾人の軽視すべからざるところ。けだし人類の物質的生活に適する所は、おのずから心神の暢発に適するところ。しかのみならず、島嶼の気候の多様、風物の多種は、おのずから島民を刺激して多少円満なる発達を遂げしむるものなればなり。イギリス人がもっとも遅れて大陸の文化を受けたるに関わらず、その源を超出して、世界に光輝を発揚する所以のものは、この事実によりて説き出せらるべきものならん。しかして、同一の理由はその頑迷なる大陸国民と伍し、その感化を受けて発育して、なおかつ大陸国民の容易に享受しうべからざる最近泰西の文明を受容し、っこれを容鋳しつつある日東帝国の近時を説明しうべきところならん。しからざれば、世にかくのごとき不可思議の現象あらざるべし。おそらくはこの減少は、久しく内外人をして奇異の感をなさしめ、今なお幾多の疑団を氷解するあたわざらしむる所以のものにはあらざるか。何となれば数千年間、たがいに相伍し、相通じ、もってわが国に文化を伝達したる諸国の歴史を、いかほどくり返すも、現在に発達したるわが邦《くに》の文化のすべての要素をその理由とを発見し、説明し能わざるべければなり。島民は鞏固なる愛国心はた愛郷心に富み一朝外患の迫るに当たっては、一致団結その身を君国に捧ぐるの慨あり。これ実に吾人島国民が、その独特の気象として、大陸国民に誇るところにして、大陸民のすこぶる畏敬するところ、帝国二千五百余年の歴史における外交上の事蹟は、ことごとくこの高尚なる忠君愛国心の発揮にあらざるはなし。けだし島の卓然大陸の騒乱以外に超立するところ、したがって、また島民各自が協力もって外敵を掃攘《そうじょう》するにあらざるよりは、他に逃避もしくは以来の手段なき孤立無援の窮境に陥るところ等は、おのずからこの特質を生ずるものならん。

わかったこと
○(海で囲まれた地形である)島国の日本とイギリスの人口を見ると、多くの人家・人間などが、ある地域に密集していることは今の現状に照らして説明できることだ。
○島国の住民は、自由奔放で、時には予測不能なこともある。しかし、確信をもって推察するに、物質豊かな生活に適するところは、精神も快活さに適するところであるので、島国の多様な気候とその土地に特有なものが自ずと島民を刺激して少なからず円満な発展を遂げるのも事実であろう。
○イギリス人は、大陸から一番遅れて、文化を受けたのにも関わらず、そのことはさておいて、世界でも目を見張る発展を遂げたことは、否めない。
○また、その理由として、頭が固く正しい判断をしがちな大陸国民とも仲間になって、その感化を受け成長し、最近では、西洋の文明をも受容し、多民族・多人種・多宗教を内包しつつも大きな領域を統治する国家を形成したことを説明するに能う。
○この島国民は、外人から見れば難解で不思議であることの答えになるのではないか。
○また、島民は強固な愛国心愛郷心に富んでおり、いっきに起こった外国とのいっかいな問題に迫られるにあたっては、島民が一致団結して全身全力で愛国のために身を捧げる。
○このことは、自分を含む島国民が、独特な気象として大陸民に誇れるところであり、畏れ敬うところでもある。統治に成功した2500余年の歴史の外交のあとかたは、ことごとくこの高尚なる愛国心が発揮された賜物である。
○島民が協力して外敵を払いのけるのにあたるよりは、他に避難したり村八分的な孤立の窮境に陥ってしまうところは、前述のような特質ゆえである。

 以上は島国に特有の長所なるが、この長所は、やがて島国人に免かるべかららざる短所となれり。いわゆる「島国根性」なるものこれなり。何をかいう、度量の狭隘なるにあり、自負心に富むにあり、小成に安んずるにあり、変僻的はた孤動的なるにあり、反面より言えば、寛容ならざるなり、されば時に応じて表わるる愛国心といえども、まったく外部の強圧に反動して起こるものにして、退嬰的のもなり。ゆえに外敵の圧力されば、依然として孤動的性質を表わし、かえって団結心に乏しく、いたずらに蝸牛角上の小争をなして、遠大の目的のために、寛容に堅忍に相結合すること少なし。これらの事実は、吾人島国民の事業と行動とを少しく反省するにおいて、容易に発見するをうべきところにして、また対馬隠岐佐渡、北海道等の辺島人士を観察するによりて、さらに著しく注意せらるべきところなり。

○以上は、島国においての長所であるが、この長所はやがて免れることのできない短所になってしまう。いわゆる「島国根性」というものである。
○何をさすかというと、度量が狭く、自負心に富んで、ちょっと成功するとそれに安住してしまったりする。それは、偏狭で孤立しやすいところもある。
○逆にいうと、寛容さが足りない。それなら、時に応じて表す愛国心は、外部の圧力への反動に対して起こるもので、進んで新しいことをしない消極的さでもあったりする。
○よって、外敵から逃れれば、依然として独善的孤立気質を表し、かえって団結しようという心に乏しく、無駄にちっちぇえ争いを繰り返し、遠大な目的のために、心を貸そうとしない。
○これらの事実は、我々日本国民の事業と行動を少なくし、反省するところで、簡単に発見できる嘆かわしいことろである。また、日本の中のそのまた島国を観察すると、顕著にみられるので、注意しなければならないことである。


島が従来とかく大陸の開化に遅れし事も、また短所の一つに数うべきもの、けだし未開人民に対しては、海洋は一つ交通遮断物なり。島はすなわち遮断物をもって大陸と隔離するがゆえに、一方に大陸擾乱以外に卓立するをうるの益ありとともに、また大陸の文明におくるることは、島民の思想界の狭隘とその程度とを意味す。以上列挙したる島人の幾多の短所は、直接にはた間接に見聞の狭隘に基づくなり。しかれども、島が身心の暢発に適することは、すでに述べたるごとくなれば、初めにおいては、頑迷にして、容易に外界の刺激のために醒起せられずとはいえ、一たびその困難の域を越えて警醒せらるるにおいては、かえって著大の進歩をなすことは、イギリスおよび日本の実例に徴して明らかなり。されば従来の島を観察するによりて得たる以上の特色、ことにその短所は、これを永久のものとなすべからず。畢竟、洋海中に孤立して、国際間の関係を避くるの位置にありしがために、おのずから思想界の範囲の狭隘となれるよりきたれるものなれば、その大部分は思想界の拡張とともに一掃せらるべきものに属す。島国は幸いに文明国民の唯一の交通機関となすところの洋海に四囲せらる。ゆえに進んでこの交通機関を利用しうる程度に達したる後には、おのずからその思想の範囲は拡張せられ、退嬰的愛国心は、ここに進取的愛国心と化し、もって世界に雄飛するにたることは、またイギリスの実例に徴して明らかなるところ。イギリスが他の先進列強国を凌駕して、世界にその版図を拡張するに至りたる所以のものは、実に島の賜にほかならざるなり。